特別受益

特別受益とは、普段聞きなれない言葉かもしれませんが、遺産分割に関するご相談においては、必ずと言って良いほどテーマになります。
特別受益においては、そもそも特別受益にあたるかどうか、その判断基準が難しい上に、その評価や証明方法も簡単ではありません。

特別受益問題とは?

特別受益とは、被相続人から相続人に対して遺贈された財産、または婚姻や養子縁組のためもしくは生計の資本として贈与された財産のことです。
特別受益を受けた相続人がいる場合、他の相続人と不公平な結果が生じているため、これを是正する必要があります。
そして、この不公平を是正するための制度を「特別受益の持戻し」と言います。

例えば、相続財産が5,000万円、相続人が子ども3名(各自均等の相続分)として、その相続人のうち、被相続人から生前に1,000万円の贈与(特別受益)を受けた者がいるとします。
このような場合に、次のように特別受益分も相続財産とみなすことにより、各自の取得分を定めます。

・特別受益を受けた相続人・・相続財産5,000万円のうち1,000万円を取得
(5,000万円+1,000万円)÷3-1,000万円=1,000万円

・その他の相続人・・相続財産5,000万円のうち2,000万円を取得
(5,000万円+1,000万円)÷3=2,000万円

もっとも、特別受益に該当するには、そもそも特別受益に該当するのか(扶養義務の範囲か否かなど)という問題に加え、その評価方法、立証方法など、様々な法的問題があります。
以下、具体例を交えて、ご説明致します。

特別受益に関して問題となるケース

他の相続人が被相続人から生前贈与を受けていたことを認めない。

具体例

特別受益が問題となるケースとして最も代表的なものは、他の相続人が被相続人から生前に多額の贈与を受けていたにもかかわらず、そのことを認めてくれない、ということが考えられます。

このようなケースの事例においては、特別受益をどのように立証していくのかが問題となります。

対処方法

贈与を受けたものが不動産のとき、登記簿謄本(あるいは閉鎖登記簿謄本)にその贈与の履歴が記載されています。

そのため、対象となる不動産の住所、地番等を調査の上、登記簿謄本等の取り寄せることで、特別受益を受けていたことを証明します。

贈与を受けたものが株式のときには、弁護士会照会制度を利用し、当該株式会社に対して株主の異動を調査することにより、特別受益を受けていたことを証明します。

これに対し、贈与を受けたものが金銭のときには、特別受益の立証が難しくなります。

特に、それでも、被相続人の預貯金の取引履歴(振込の記録)などから、相続人への金銭移動の調査を行うなどして、特別受益の立証を試みます。

特別受益の価値が遺産分割協議中に大きく変化してしまった。

具体例

被相続人から、生前に不動産や株式などを譲り受けたものの、遺産分割協議中、その評価額が著しく下がったなど、特別受益の価値が大きく変化した場合、どのように対処すべきか問題となります。

対処方法

一般的に、土地については路線価、建物については固定資産評価額を参考とします。(もし、これらの価額が市場価額と著しく乖離している場合には、鑑定により決することを検討します。)

そして、特別受益の評価額の基準時ですが、それは贈与の時や遺産分割の時ではなく、相続開始当時の価額を基準とします(最判昭和51年3月18日参照)。

仮に、株式(特別受益)などの価値が遺産分割協議中に著しく下がったとしても、相続開始当時、つまり被相続人が死亡した当時の価額が基準となります。その結果、遺産分割協議中に特別受益の価値が大きく変化しても、あくまで被相続人の死亡当時の価額を基準として対処することになります。

被相続人から受け取った財産が既に滅失している。

具体例

被相続人から受け取った建物が、相続開始時において、既に焼失するなどして滅失してしまっているような場合、この建物を特別受益として扱うのかが問題となります。

対処方法

既に特別受益として受け取ったものが滅失している場合であっても、受け取った相続人の行為により滅失している場合には、原状のまま、つまり対象物が滅失前の状態で相続開始時にあるとみなし、特別受益の対象とします(民法904条参照)。

ただし、その滅失が受け取った相続人の行為ではなく、地震などの不可抗力による場合には、相続開始時の状況で評価します。

滅失した理由により、特別受益としての取り扱いも異なってきますので、注意が必要です。

特定の相続人のみが被相続人から多額の学費の援助を受けていた。

具体例

被相続人から他の相続人に比べて多額の学費を援助してもらっている相続人がおり、相続人間で不公平が生じていることがあります。

このようなケースの場合、多額の学費の援助が特別受益に該当するかどうかが問題となります。

対処方法

特別受益とは、「生計の資本として」なされたものでなければならず、通常の扶養義務の範囲でなされた援助は、特別受益に該当しません。

そのため、学費の援助は、基本的には、扶養義務の範囲として特別受益には該当しないと考えられます。

ただし、特定の相続人の学費のみ、被相続人の資力からするとあまりにも高額であり、相続人間で著しく不均衡が生じている場合には、例外的に特別受益に該当することもあり得ると考えます。

被相続人の資力や、他の相続人の学費の支払状況をも調査し、仮に、上記のような著しい不均衡が生じている場合には、特別受益の主張をする価値は十分にあるでしょう。

特定の相続人が、多額の死亡保険金を受け取っていた。

具体例

被相続人が死亡した際、多額の死亡保険金を受け取っている場合、結果的に相続人間で不公平が生じていることがあります。

このようなケースにおいては、この不公平をどのように是正するのかが問題となります。

対処方法

死亡保険金とは、受取人の固有の権利の権利でありますから、相続財産としては扱われません。

しかし、相続人間の不公平が到底是認することができないほど著しいような特段の事情がある場合、特別受益に準ずるものとして持ち戻しの対象とされることがあります(最決平成16年10月29日参照)。

死亡保険金の額が遺産に比べて多額の場合には、死亡保険金が特別受益に該当する旨主張することで、相続人間の不公平を是正します。

特別受益まとめ

特別受益とは、相続人間の不公平を是正するための重要な制度です。
しかし、その立証や評価方法は難しく、適切な証拠に基づき主張しなければ、かえって紛争をこじらせることになりますので、注意が必要です。

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