弁護士 受任通知

弁護士がご依頼者の方から委任を受ける際、委任契約書を締結します。そして、受任したことを対外的に証明するために、ご依頼者の方に委任状を作成していただきます。

委任契約書及び委任状を作成していただいた後、弁護士は、相手方当事者に対して、ご依頼者の方から依頼を受けたことを明らかにするために、受任通知を行います。

本記事においては、弁護士による受任通知につき、債務整理を中心として、ご説明いたします。

 

弁護士による受任通知とは?

まず、受任通知とは、具体的にどのようなものなのかについてご説明いたします。

受任通知とは、弁護士が、ご依頼者の方から依頼を受けた際、相手方に弁護士が就任したことを通知することを意味します。

この受任通知は、一般的には、内容証明郵便を利用して行うことが多いでしょう。書面のタイトルを「受任通知書」として、「当職は、通知人からの依頼により、本件を受任致しましたので、その旨本書面をもちまして御通知致します」「本件につきましては、当職がその全てを受任しておりますので、今後の御連絡等につきましては、通知人本人ではなく、当職宛にお願い申し上げます」などと記載します。

「今後の御連絡等につきましては、通知人本人ではなく、当職宛にお願い申し上げます」という記載についてですが、これは、相手方に対し、今後の連絡をご依頼者の方ではなく、弁護士に対して連絡して欲しいという内容です。ご依頼者の方には、相手方に受任通知書を発送する際、仮に、相手方から直接の連絡があったときには、弁護士に連絡するように伝えて欲しい旨述べておきます。

なお、弁護士職務基本規程の第52条によれば、「弁護士は、相手方に法令上の資格を有する代理人が選任されたときは、正当な理由なく、その代理人の承諾を得ないで直接相手方と交渉してはならない。」と規定されています。つまり、弁護士は、相手方に代理人弁護士が就任している場合には、代理人弁護士と交渉しなければならないことになっています。

もっとも、本人を介することなく、互いの代理人弁護士が、法律的な観点から、冷静に話し合いをした方が、紛争の円満解決を図ることができる場合が多いでしょう。

 

債務整理における受任通知の効果

債務整理における受任通知の効果 画像

受任通知は、弁護士がご依頼者の方の代理人として就任した場合には、必ずと言って良いほど行うものです。

特に、弁護士が受任する事件の中でも、債務整理事件においては、弁護士が受任通知を行う意味は、より一層大きいものと思います。

債務整理自己破産民事再生任意整理)のご依頼者の方は、債権者である貸金業者からの取り立てが厳しく、この取り立てに対応することができないという思いから、弁護士に相談するケースがほとんどです。

仮に、弁護士がご依頼者の方から債務整理について受任した場合には、貸金業者に対して、受任通知書を送付することにより、受任したことを通知します。なお、この受任通知書は、一般的に債権者数が多いこともあり、普通郵便で送付することが多いでしょう。

弁護士から貸金業者に対して、受任通知がなされると、貸金業法第21条1項9号等に基づき、貸金業者は、ご依頼者の方本人に対して正当な理由なく、電話やファクシミリを利用して、または、訪問するなどして、債務の返済等を求めることができなくなります。(仮に、貸金業者が、これに違反する行為をした場合には、刑事罰を科され、また、行政処分の対象になる可能性があります。)

債務整理においては、貸金業者からの連絡、取り立て等に悩むご依頼者の方を救済するため、可能な限り、早期に受任通知書を発送することが重要です。

 

債務整理における受任通知書の記載例

債務整理を開始するにあたっての受任通知書の書き方についてご紹介いたします。

まず、ご依頼者の方からの依頼により、債務整理を受任したことを明記します。この債務整理の内容ですが、既に、その方針が決定している場合には、その内容(自己破産、民事再生、任意整理など)を明記しておいた方が良いでしょう。

そして、ご依頼者の方の住所、氏名(読み仮名を含む)、生年月日を記入します。利用明細書などから会員番号が分かれば、会員番号も記入した方が良いでしょう。また、貸金業者が把握している住所が旧住所の可能性もありますので、あらかじめ旧住所を記載しておくと良いでしょう。

次に、貸金業者からご依頼者の方に連絡等が直接なされることを防ぐため、「混乱を避けるため、今後、債務者(ご依頼者の方)への連絡や取立行為はご中止下さい」という旨記載します。このように、受任通知により、ご依頼者の方に対して連絡、取立行為を中止して欲しい旨連絡したにもかかわらず、貸金業者がご依頼者の方に対して連絡、取立行為などを行った場合には、貸金業法等に違反することになります。

また、受任通知書には、「正確な負債状況を早急に把握したいと存じますので、債務者と貴社との取引経過のすべてを弁護士宛ご開示下さい(完済分も含め、取引の当初からの経過をご開示下さい)」という取引履歴の開示を求める旨も記載します。

貸金業者には、債務者等に対して、これまでの取引履歴を開示する義務が、平成17年7月19日最高裁第三小法廷判決(民集59巻6号1786頁)、貸金業法19条、同法19条の2により、認められています。

ご依頼者の方から受任した直後では、債務の額が不明確であり、今後の債務整理の方針が決定していないこともあります。そこで、取引履歴の開示を受けることで、債務額を把握するために、取引履歴の開示を求める旨の記載をする必要があるのです。

なお、取引履歴の開示を受け、過去に利息制限法を超える利率により貸付がなされていた場合、債務額の減縮、ひいては過払い金が発生する可能性があります。そのため、過去に利息制限法を超える利率でなかったかを確認するためにも、取引履歴の開示を求めることは必須でしょう。

さらに、貸金業者とのやり取りは、可能な限り記録に残し、証拠化すべきです。そのため、受任通知書には、「本件についてのご連絡やお問い合わせは、書面により、送達場所(代理人弁護士事務所)への郵便またはFAXでお願い致します」という内容も記載します。

加えて、ご依頼者の方の債務につき、ケースによっては、既に時効が完成している可能性があります。しかし、受任通知書を送付することで、貸金業者側が、ご依頼者が債務の存在を認めていることから、時効の更新事由である「承認」(民法152条)に該当すると主張する可能性を否定できません。

そこで、受任通知書には、「本通知は、時効の更新事由としての債務承認をするものではありません」と明記しておいた方が良いでしょう。

 

債務整理において受任通知書を送付するリスク

債務整理において受任通知書を送付するリスク 画像

既に述べたように、債務整理においては、貸金業者からのご依頼者の方に対する連絡や取立行為を止めるために、早期に受任通知書を送付することが重要です。

しかし、受任通知書を送付することにつき、リスクもないわけではありません。銀行などの金融機関から借り入れがあるため、受任通知書を送付する際、ご依頼者の方がその金融機関に預金口座を保有していたような場合には、借入債務と預金債権が相殺となり、預金を引き出すことが出来なくなる可能性があります。

特に、借入先の金融機関の預金口座が給与の振込先となっているような場合、受任通知書の送付時期によっては、給与を引き出すことができず、生活に困窮する可能性が生じてしまいます。そのため、受任通知書を送付する場合には、借入先に預金債権等の債権を保有していないかどうかを十分に確認する必要があるのです。

 

まとめ

これまで、債務整理を中心として、弁護士による受任通知につき、詳しくご説明をしてきました。相手方に受任通知を行うことは、あらゆる事件において必要となります。

しかし、受任通知を行うことには、リスクもないわけではありません。内容面も含めて、しっかり吟味をして、受任通知書を作成し、発送する必要があります。

本記事が、弁護士により受任通知を行うことについてお考えの方の一助になればと思います。くぬぎ経営法律事務所では、債務整理はもちろんのこと、様々な案件を扱っております。お気軽にご相談いただければ幸いでございます。

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