熟年離婚 増加と原因

熟年離婚とは

熟年離婚とは、明確な法律上の定義はありませんが、長年連れ添った夫婦が離婚することを意味します。

 

近年では、この熟年離婚は、増加傾向にあります。増加の原因は一概には言えませんが、平成19年から開始された年金分割制度は大きな原因の一つでしょう。

 

つまり、年金分割が導入される前は、専業主婦としてこれまで内助の功を尽くしてきたにもかかわらず、離婚した際、年金の受給面において、将来の年金額について男女の間において大きな差が生じてしまうことから、離婚するにあたり躊躇せざるを得ませんでした。

 

しかし、年金分割の制度導入後は、婚姻期間中の厚生年金の保険料納付記録(年金額を算出する際の基礎となる標準報酬)を夫婦間で分割することが認められることになりました。その結果、年金面において男女の不平等が是正されたことは、熟年離婚の増加の原因の一つと言って良いでしょう。

 

もっとも、年金の面における不平等が軽減されたからと言って、熟年離婚に踏み切るかどうかについては慎重に検討をしなければなりません。以下、熟年離婚を考えるにあたり、その注意点などについてご説明をしたいと思います。

 

必ず熟年離婚に応じなければならないのか?

必ず熟年離婚に応じなければならないのか? 画像

熟年離婚の例として、定年後、突然、妻から離婚届を突き付けられるというような話を聞いたことがあるかもしれません。このようなケースが多い理由としては、①定年後は、夫婦が一緒にいる時間が長くなることで、より一層ストレスを感じることに不安がある、②将来的に夫の介護をしなければならないことへの不安、③元々性格が合わなかったものの、退職金が入るまで我慢してきた、などが考えられます。

 

しかし、ここで注意しなければならないのは、離婚届を突き付けられたとしても、直ちに、離婚に応じなければならないというわけではないことです。

 

裁判上、離婚が認められるには、民法770条の定める離婚原因が認められなければなりません。具体的には、①配偶者による不貞行為があったとき、②配偶者から悪意で遺棄されたとき、③配偶者の生死が3年以上明らかでないとき、④配偶者が強度の精神病にかかって回復する見込みがないとき、⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき、のいずれかの離婚原因が認められなければなりません。

 

(なお、これらの離婚原因がある場合でも、家庭裁判所が一切の事情を考慮して、婚姻の継続が見込めると判断した場合、離婚請求が認められない可能性もあります。)

 

例えば、浮気をしていたなどの事情があり、これを証する証拠が存在する場合には、①配偶者による不貞行為があったときに該当するとして、裁判上の離婚が認められる可能性が高いと言えます。

 

しかし、先に述べた、将来の不安やこれまで我慢してきたなどの理由だけでは、「その他婚姻を継続し難い重大な事由がある」とまでは認められず、裁判上において離婚が認められるだけの離婚原因があると認められる可能性は低いと言わざるを得ません。一般的には、これらの理由に加えて、5年以上の別居期間があるなど、婚姻継続が難しいということを明らかにする客観的な事情が必要とされています。

 

そのため、仮に、離婚届を突き付けられたとしても、本当に離婚をしなければならないのかどうかについては熟慮する必要があります。

 

熟年離婚における財産分与はどうなるのか?

熟年離婚における財産分与はどうなるのか? 画像

離婚を求める側としても、本当に熟年離婚をすることが良い選択肢なのか、ということは吟味しなければなりません。その理由として、離婚をすると、「財産分与」の問題が必ずと言って良いほど生じるということが挙げられます。

 

財産分与とは、夫婦が婚姻中に形成した財産を、離婚の際に分配する制度を意味します。分配の割合は、特段の事情なき限り、互いに2分の1ずつ、財産を分配することになります。特に、熟年離婚のケースにおいては、不動産や預貯金など、これまで形成してきた財産が多額であるという特徴がありますから、この財産分与については、十分に注意しなければなりません。

 

熟年離婚を考えている方は、離婚に備えて財産を貯蓄しているということがしばしばあります。しかし、熟年離婚をすると、財産分与により、自らが貯蓄してきた財産の2分の1を、相手方に分配しなければならなくなります。熟年離婚を決意する際には、このような不利益が生じる可能性があることを考慮して決断しなければなりません。(なお、財産分与の権利を行使できる期間は、離婚成立後から2年間です。)

 

他方で、熟年離婚における財産分与は不動産や預貯金だけでなく、退職金もその対象になり得るということに注意する必要があります。退職金が既に支給されている場合には勿論、退職金が支給される前であっても、退職金発生の蓋然性が高い場合には、退職金を財産分与の対象に加えることを忘れてはなりません。

 

もっとも、熟年離婚においても、相手方が財産を保有していることは間違いないものの、相手方が保有している財産の詳しい状況が分からないということが考えられます。

 

このような場合、その調査は非常に難しいのですが、例えば、預貯金を保有している可能性の高い金融機関に対して、弁護士会照会制度を利用し、預貯金の保有の有無について確認し、保有していることが判明した場合、裁判所に対して文書送付嘱託の申出を行うことで、取引履歴の開示を求めるということなどが考えられます。

 

熟年離婚後の生活設計

法律論ではないのかもしれませんが、熟年離婚を選択するとして、離婚後の生活設計については必ず考える必要があります。

 

夫婦は、婚姻中であれば、相互に助け合う義務(相互扶助義務)があります(民法752条)。離婚すれば、この相互扶助義務がなくなりますので、相手方の面倒を見なくてもよくなります。しかし、その反面、面倒を見てもらうこともできなくなります。そのため、当然のことではありますが、将来の生活設計を必ず念頭に置いた上で、決断しなければならないのです。

 

そして、このことは、離婚を申し出た方も、申し出られた方も、どちらも考えなければなりません。自分1人で本当に生活していけるのか、そのための資産や収入を確保することはできるのか、今は生活できていても、その後は大丈夫なのか、ということを真剣に考える必要があると思います。

 

確かに、どうしても生活していくことができない場合には、生活保護を申請するという方法はあります。しかし、離婚後の生活を充実させるためには、財産の構築、収入、支出の予測を含めた将来の生活設計を構築することが不可欠でしょう。

 

熟年離婚 まとめ

これまで熟年離婚における増加や原因、注意点などについてご説明してきました。いずれにしても、熟年離婚を決意するには、離婚原因、財産分与、将来の生活設計など、十分な吟味をすることが不可欠となります。

 

これらの吟味において、法律の専門家である弁護士の役割が重要となることが多いでしょう。熟年離婚についてお悩みの方は、当くぬぎ経営法律事務所にお気軽にご相談いただければ幸いでございます。

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